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<コラム:エンタメ☆37℃>舞台『すべての四月のために』@東京芸術劇場プレイハウス 11/20<コラム:エンタメ☆37℃>舞台『すべての四月のために』@東京芸術劇場プレイハウス 11/20

<コラム:エンタメ☆37℃>舞台『すべての四月のために』@東京芸術劇場プレイハウス 11/20

~ 舞台って難しそう、と一度でも思ったことがある方に向ける観劇コラム(のようなもの) ~

まず言わせていただくと、主要キャストに人気タレントや俳優がキャスティングされている舞台は、とにかくチケットの入手が困難である。それでもどうしても観たかった舞台が、『すべての四月のために』。何故にそんなに気になったのかと問われれば、「直感」としか答えようがない。

その直感をまったく裏切らなかったこの舞台の主演は、森田剛。さらに共演者には臼田あさ美、麻実れい、西田尚美、村川絵梨、伊藤沙莉、小柳友、稲葉友、池田努、津村知与支、牧野莉佳、近藤公園、中村靖日、山本亨らが名を連ねている。作・演出は、舞台『焼肉ドラゴン』、映画『月はどっちに出ている』『愛を乞うひと』などで数々の賞に輝いた、鄭義信によるもの。第二次世界大戦下の朝鮮半島近くに浮かぶ島を舞台に、朝鮮人の家族と彼らを取り巻く朝鮮人・日本人軍人たちのストーリーとなっている。

戦争という日常に、明るく立ち向かう人物たち

戦争をテーマにした舞台には、全体的に暗いイメージを持つ方が多いだろう。衣装やセットも華美ではなく、テーマがテーマだけにエンターテインメント性も低くなりがち、という印象もあるかもしれない。が、この舞台は、それだけではない。セットはどこか懐かしさを感じさせる日本家屋風で、そこに住まう家族たちはとにかく明るい。涙する場面もいくつもあるが、それよりも笑顔が、圧倒的に強い。

コミカルなシーンも多く、観劇初心者でも笑いながら観られるし理解もしやすい。明るい家族たちのキャラクターによって、舞台全体が昭和のホームドラマのような温かさを放つ。実際には、戦時下の子どもたちの強制労働、徴兵、抗日組織に関連した事件、国と国との対立による迫害や一家離散など、登場人物たちの毎日は決して易しいものではない。それでも、涙や嘆きのあとに最後は明るく笑う登場人物たちが健気で、観る側が流す涙もどこか温かい涙だったように感じられた。

笑顔で生き抜くこと、未来を見つめる強さ

森田剛氏が演じる主人公萬石(マンソク)は日記魔で、日記を記す理由を、いつか自分たちの子供や孫やひ孫たちに読んで欲しいからだと言う。そして麻美れい演じる英順(ヨンスン)は舞台の終盤で、昨日がどうあれ今日にありがとう、どうか明日が幸福でありますように、と繰り返す。ひたすら未来を見つめ続ける彼らに、胸を打たれる。

"「悲しいから笑おう」という生き方をする家族に、人間の力強さを感じた"とは、公式パンフレット内の森田剛氏(主演)の言葉だが、まさに観客側も泣き笑いをしながら、その強さを少し分けてもらえたような気がするのだ。笑顔のなかにこそ明日を生きる強さが、未来に向かって歩き出す力が宿るのだと、あらためて教えてもらったような気になるのだ。

タイトルに込められた想い

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高齢化社会に向けて突き進む日本は政治状況も悪く、多くの若者たちは特に東日本大震災以降「明日はどうなるか分からない」という不安を抱えているのでは、と、鄭義信氏。そんな世相だからこそ、「明日はやってくるんだ」という希望を書くことを作家としての使命だと感じるという。『すべての四月のために』というタイトルには、そんな祈りを込めたそうだ。劇中に出てくる四姉妹の名前も、冬子、秋子、夏子、春子と四季を表すし、季節がめぐってまた同じ季節がやってくる、という内容の台詞が幾度も出てくる。日々は巡り、明るい春(四月)は何度でも再び訪れる、ということかもしれない。

鄭義信氏は"胸にぽっと明かりが灯る、そういう思いを持って帰ってもらえたら"とも語っているが、まさにそんな舞台だった。このコラムを書くにあたり観劇した方々のレビューをいくつか参考にさせていただいたところ、映画化を望む声もあった。より多くの人々に観てもらいたい、と、一度観た者に思わせる何かが、この作品には確かにあると思う。残念ながら前売り券の入手は困難なようだが当日券の販売はあるし、どうにかしてチケットを手に入れる機会がある方には、ぜひ観ていただきたい舞台である。

『すべての四月のために』は、東京芸術劇場プレイハウスにて11月29日 (水) まで上演中。12月8日からロームシアター京都(京都)、12月22日から北九州芸術劇場(福岡)で上演予定。
→ 『すべての四月のために』公式サイト

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(公式サイト画面)

※文中の鄭義信氏、森田剛氏のコメントはすべて、公式パンフレットより引用・要約させていただいたものです。

オススメ:★★★★★
笑える:★★★☆☆
泣ける:★★★★☆
注)あくまでも個人の感想です。

文:谷原青
年間約50公演の舞台やミュージカルに足を運んで2年目(もちろん自腹)、いまだに観劇素人。視力が低くオペラグラスは欠かせない。